『人工透析を受けないために・・・慢性腎臓病の早期発見カギ』
腎臓の機能が低下し、人工透析を受ける患者が増え続けている。
慢性腎臓病の初期段階で気づき専門医の治療を受けていれば、患者にとって負担の大きい透析に頼らずに済んだケースが少なくない。
治療に必要な食事指導や検査に対する診療報酬が透析に比べ低く、
医療機関が治療に力を入れにくいという事情もある。
慢性腎臓病の早期発見と透析を回避するための医療体制の充実が必要だ。
「えっ、透析ですか。」
関東地方に住む70代の男性は今年5月末、ある大学病院の腎臓内科で、医師から
「腎不全で9月には透析が必要になる」
と告げられ、驚きの声を上げた。
同じ病院の糖尿病科の主治医から「次回は腎臓内科だ」と言われ、理由も分からず受診した結果の突然の”宣告”。
自覚症状もなく「腎臓がこんなに悪化していたとは・・・」と落胆した。
気づかずに悪化
男性が糖尿病を患ったのは約20年前。この大学病院には10年以上通院し、インスリンの自己注射などで血糖値は正常値の範囲内で管理できていたが、合併症で腎機能が低下していた。
尿からたんぱくが検出されるという兆しはあったが、糖尿病専門の主治医は血糖値の管理が中心。腎機能の十分な説明はなく、
「うまく治療できている」と思い、「刺し身などタンパク質は気にせず食べていた」と振り返る。
人工透析の大半を占める「血液透析」は、腎臓のように血液内の老廃物を排出する大概装置に患者の腕から管で血液を送り込み循環させて浄化する。
1回約4時間、週3回通院する必要があり、患者の日常生活や仕事への影響が大きい。
透析に至らないようにするには、まず予備軍である慢性腎臓病の早期発見が重要だ。
慢性腎臓病は糖尿病などの合併症や腎臓内の炎症などのため
1)たんぱく尿など腎臓に障害がある
2)腎臓の機能を示す糸球体ろ過量が60未満に低下している
のいずれかが3ヶ月以上持続した状態だ。
国内の推定患者は約1330万人。日本腎臓学会の槙野史理事長は
「自覚症状がなく、気づいていない人も多い。尿検査でたんぱくが出たら精密検査を受けるべきだ」
と警告する。
いったん腎機能が低下すると回復するのは難しく、タンパク質などの食事制限と血圧管理、薬物療法を組み合わせた「保存療法」で残る機能を維持する治療が、透析に至らせないようにするのに有効だ。
保存療法に積極的に取り組む椎貝クリニック(茨城県取手市)の椎貝達夫院長は、血液検査を合わせ70項目以上に及ぶ検査の主要データを「腎臓病手帳」に抜き書きしてきめ細かく指導する。
通院している男性会社員(39)は「特に食事制限の効果が数値で明確に分かり、タンパク質などの摂取量の調整が柔軟にでき、継続しやすい」と喜ぶ。
同クリニックでは2009年12月の開院以来、322人の慢性腎臓病の患者を治療している。約3分の1が最も腎機能の悪い状態の患者だが、透析導入は来院時にすでに透析が必要なレ得るだった11人を含み29人のみ。
椎貝院長が以前勤めていた取手協同病院(現JAとりで総合医療センター)も保存療法に力を入れたところ、新規に透析を導入した患者は3割強減った。
診療報酬も課題
ただ現行の診療報酬は診察に時間をかけても変わらない。
検査項目数も診療報酬では限られており、細かく検査した項目は医療機関の負担になってしまう。
一方の透析は、患者一人あたり年間約500万円の収入につながるため、椎貝院長は
「診察に時間と費用のかかる保存療法より、安易に透析を導入してしまう医師が多くなってしまう」
と指摘する。
今年は腎不全の患者などでつくる全国腎臓病協議会が結成されて40年。結成当時は患者負担が大きく、透析を受けられずに亡くなる患者もいたが、現在は患者負担は原則月1万円に抑えられている。宮本高宏会長は
「誰でも透析医療を受けられる事が当たり前になった」
と振り返る。
しかし「長期透析患者の合併症など、日常生活に多くの困難を抱えている患者が急速に増えている」という。
「慢性腎臓病の予防対策と、透析治療に移行しないための啓発活動が必要だ」
と訴えている。

